イリモノづくり

デザインは身近にありました。要るもの作ろう イリモノづくり。

特別講義「デザインと伝統工芸のアンビバレンス」聴講しました。

昨日1/21(土)の18:00時より、京都造形芸術大学 通信教育部 空間演出デザインコースによる特別講義が行われました。

空デ特別講義

「デザインと伝統工芸のアンビバレンス」
というテーマでの乾陽亮先生でした。

振り返りながら、整理して咀嚼するのにブログに書こうと思います。


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伝統工芸とは

伝統工芸は文化ではない。伝統工芸は産業である。という内容からお話は始まりました。
伝統工芸は「つくること」自体が目的なもので、伝統工芸は文化ではないし、職人も文化をもっていないとのこと。
そして、伝統工芸は数百年に渡って多くの人が取り組み、発展し続けているものなので、完成していると同時に未完であるということでした。
伝統工芸に関わったことはありませんが、すごくよくわかる内容です。

お話の中で、「伝統 = 上塗り続けること」と表現がありました。
少し話は逸れますが、今、僕が関わっているプロジェクトは地域の伝統行事を復活させたりしているものです。大きな陶器の人形や、口承伝統を復活させたりしています。それらは伝統工芸ではありませんが、同じ「伝統」という言葉が入っているということは、上塗り続けられてきたものなのかもしれません。
上塗りされていく中で、色んな振れ幅がありつつ継がれていくということだと思うので、伝統を復活させているプロジェクトとしては、振れ幅を試してみるのもいいのかもしれないなと思ったりします。


伝統工芸とデザインは相性が悪い

さて、伝統工芸は完成していると同時に未完であるものだという一方で、デザインというのは、目的を叶えるために理論を構築することであるから、可能性を広げると同時に固定し、制限されるものであるということでした。
すなわち、伝統工芸とデザインは全く別の知のあり方であって、相性が悪いようです。

よく、デザイナーが伝統工芸品をデザインしてデザインプロダクト的に発表・販売しているものがあったりしますが、それらはその時は注目を浴びていても、うまく続いている例はすごく少ないとのこと。
確かに、言われてみると、伝統工芸に疎い僕であっても、ずっと目にしているものは少ないように思えます。
きっと、どこかに無理が生まれるんでしょうね。見た目が飽きるものであったり、使い勝手が細部まで行き届いていなかったりなどして。


伝統工芸そのものではなく、周辺をデザインする

デザインと伝統工芸は相性が悪いのだから、伝統工芸そのものをデザインするべきではなくて、その周辺をデザインすることが大事だということでした。
乾先生の事例をいくつもご紹介いただきながら、その伝統工芸の「周辺」についてお話いただけました。
どこまで書いていいかわからないので書きませんが、乾先生のWebサイトのリンクだけ貼っておきます。

www.inuiyosuke.jp


その周辺というのは、「つくること」ではなく(それは職人さん達にお任せして)、知ってもらうことや、伝えることに注力されているような印象を受けました。プロダクトとして乾先生がデザインされているものも多くありましたが、それらもすべて、デザインプロダクトをつくるという目的ではなくて、伝統工芸品の良さを伝えることだとか、もっとよく知ってもらうことという目的を満たすためのデザインでありプロダクトでした。

そのプロダクト自体が目的であったり、そのプロダクトによって満たせる行為が目的であるのが一般的な気がする中で、それ以外に目的をもたせるという視点は持ったことが無かったので、この部分にすごく感動しました。空間やグラフィックを考える時は自然とそういう目的を考えることができるのに、「プロダクト=ツール」という固定化した枠ができている僕にとって、いい勉強になりました。


全体を把握して細やかなサポートすることが大事

締めくくりとして、デザイナーとして重要なこととは何かについてお話いただけました。
それは、職人のしたいことや気分、産地の状況や作り方など、全体を把握して細やかにサポートを継続すること、ということでした。
デザインの得意分野と、つくることの得意分野は、共存するところはあっても違うところもあって。そして、伝統工芸とデザインの場合は、相性が悪いので、住み分けをしつつお互いがお互いの得意分野を活かし合いながら協力していくことが必要なんだと思います。
乾先生のお話や言い方からも、デザイナーと職人はどちらが上という感じではなくて、お互いが協力しあっている、まさにパートナーのような存在なんだろうなという印象でした。


今後、僕が伝統工芸と関わることがあるのかはわかりませんが、このような「周辺」のデザインという考え方はすごくタメになる貴重な講義でした。
まずは、自分のプロダクトづくりや、伝統行事などのプロジェクトに視点を活かしていこうと思います。
現代は、地域デザインというのか、地域のあり方などを考えることも大事な時代だと思うので、その地域ごとに合った伝統や特色などを考える上でも、参考になる視点かもしれないですね。


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